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札幌高等裁判所 昭和30年(ネ)19号 判決

控訴人(原告) 塚本徳次

被控訴人(被告) 北海道

原審 札幌地方昭和二七年(行)第一七号(例集五巻一二号298参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

(申立)

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人所有の別紙第一目録記載の土地につき、昭和二六年五月三一日、被控訴人と訴外前田天との間にした随意契約による公売処分は無効であることを確認する。仮りに右請求が理由ないものとすれば、控訴人所有の別紙第一目録記載の土地につき、昭和二六年六月八日、被控訴人と訴外前田天との間にした随意契約による公売処分は無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

(当事者双方の事実上、法律の陳述)

二  当事者双方の事実上、法律上の陳述は、控訴代理人において、

「(一)確認訴訟は過去の権利又は法律関係については許されないから、過去になされた行政処分が無効であることの確認を求める訴訟は許されないとの説がある。なるほど本件公売処分は過去になされたものであるが、処分自体は権利又は法律関係を発生、変更、消滅せしめただけであつて、過去の権利又は法律関係そのものではない。しかし、本件公売処分によつて生じた権利又は法律関係は、本件処分の直後から現在に至るまで、なんら変ることなく存在している。本件公売処分の無効確認を訴求するのは、結局、本件公売処分によつて生じた現在の権利もしくは法律関係の存否の確認を求めるのと同意義であり、本訴は、過去の権利もしくは法律関係の無効確認を求めるものではない。

(二) しかも、本件公売処分無効確認訴訟は、公売処分を基礎とする現在の権利もしくは法律関係の確定、公売処分の表見的な効力の除去を目的とし、優越的地位においてされる行政権の処分を争うのであるから、抗告訴訟とその本質を等しくする。無効な行政行為もしくは行政処分といえども、行政行為もしくは行政処分としての外観を有する以上、その外観的存在を除去する必要がある場合に、抗告訴訟の提起に必要な要件を具備していない本件のような事例においては、かかる目的をもつてする行政処分無効確認の請求は当然に許さるべく、行政事件訴訟特例法第一条の定める公法上の権利関係に関する訴訟と解すべきである。

(三) また、上叙のような本訴の性質から、本訴における確認の利益も当然に認められる。すなわち、本件公売処分無効確認の判決が確定すれば、被控訴人は、その判決に拘束される結果、もはやこの公売処分を有効なものとして取り扱えなくなるが、それまでの間、控訴人は、本件公売処分に基く現在の権利又は法律関係の存否の不確定なることにより自己の法律上の地位に不安を感ずるのであるから、本件訴につき確定判決を得ることによつてこの不安を除去することができる。この意味において、本件訴には法律上の利益があるというべきである。」と述べたほかは、すべて原判決摘示の事実とすべて同一であるから、ここにこれを引用する。

(証拠関係省略)

理由

(争いのない事実)

一(一)  控訴人が石狩国浦臼村において権利を有する

1 石狩試登 第 九、〇八四号

2 同    第一〇、五三七号

3 同    第一〇、六六九号

4 同    第一〇、六七〇号

5 同    第一〇、七〇五号

の各石炭試堀鉱区に対する昭和二四年度及び昭和二五年度の鉱区税(道税)の未納分合計金十九万九百九十四円につき、被控訴人が、滞納処分として、昭和二六年一月二〇日、右鉱業権の差押処分をしたこと、

(二)  控訴人は、右滞納税金のうち十万円を納入したが、被控訴人は、さらに昭和二六年五月一六日、

1右未納分の残額九万九百九十四円について延滞金、延滞加算金を調整した 九万四千六十円に

2 昭和二一年度から昭和二三年度までの鉱区税の滞納額(督促手数料及び延滞金を含む。)

五万二千百四十六円十五銭

を新らたに加えた未納額合計 十四万六千二百六円十五銭

につき、滞納処分として、別紙第一目録記載の原告所有地中二及び四を除く土地及び本件外の家屋一棟並びに別紙第二目録記載の二、四の土地に対して追加差押処分をしたこと、

(三)  追加差押調書謄本が、昭和二六年五月二五日、郵便送達に付せられ、控訴人は、同月二七日、これを受領して右追加差押の事実を知つたこと、

(四)  被控訴人が、訴外前田天に対し、随意契約により売却処分をしたこと、

は、いずれも当事者間に争いがない。

(訴外前田天に対する売却処分の目的物並びに売却処分の日)

二 しかして、被控訴人から訴外前田天に対し、随意契約によつて売却処分された目的物は、控訴人の所有していた別紙第一目録記載の土地であつたことは、弁論の全趣旨からこれを認めることができる(原判決事実摘示中、第二の一、(一)中被控訴人の答弁として、「第二目録記載の土地」を随意契約により売却した、とあるのは、「第一目録記載の土地」の誤りであろう。)。

しかして、控訴人は、右売却処分の日は、昭和二六年五月三一日であると主張し、被控訴人は、しからずして、同年六月七日であると争うので、按ずるに、成立に争いのない乙第一号証及び第四号証並びに原審証人前田新清、当審証人斎藤秀翁、小松義男の各証言を綜合すれば、昭和二六年五月二七日、空知支庁長は、公売物件の表示としては別紙第二目録のとおりとし、公売期日を同年六月七日と定めて公告し、同期日に入札者がなかつたので、翌六月八日、訴外前田天に対し別紙第一目録記載の土地を代金十五万円で、随意契約による公売処分をしたことが認められる。成立に争いのない甲第三、第四号証、第五号証の一から四まで、当審証人佐渡重信の証言並びに当審における控訴本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして措信せず、成立に争いのない甲第六号証の一から四までのうち、空知支庁において、控訴人から滞納税金を領収した日が昭和二六年五月三一日であるとされている記載は、成立に争いのない甲第五号証の一から五まで及び第九号証の一、二並びに当審証人斎藤秀翁の証言と合せ考えると、昭和二六年六月二日から同月九日までの間に領収した税金を、昭和二五年度内の収入とするために取られた措置であることが窺われるので、右記載は前記認定を妨げるものではなく、他にこれを覆すに足る証拠はない。

(主たる請求の棄却)

三 しからば、本件公売処分が昭和二六年五月三一日にされたことを前提とする控訴人の主張は、すべて理由がないから、控訴人所有の別紙第一目録記載の土地につき、昭和二六年五月三一日、被控訴人と訴外前田天との間にした随意契約による公売処分無効確認を求める控訴人の請求は棄却さるべきである。

(追加差押無効の主張について)

四 控訴人は、仮りに本件公売処分の日が昭和二六年六月八日であるとしても、右処分は無効であるとし、その理由として、まず第一に、別紙第一目録記載の土地に対する滞納処分による差押は追加差押であるが、追加差押は、法律上、許さるべき根拠がないから無効であり、したがつて、右土地に対する本件公売処分は無効であるという。

なるほど、国税徴収法その他の関係法令には、とくに追加差押を認めるについての規定はないが、被控訴人が道税滞納者から滞納金を徴収するに当つては、滞納税額を徴収するために相当である限り、いつでも、滞納税額を徴収するに足りる滞納者の財産を差し押えることができるものと解すべく、一旦差し押えたのちに、差押財産をもつてしては滞納税額を徴収する見込がないと認めることが相当である場合には、さらに滞納者の別の財産を差し押えることができるといわなければならない。したがつて、追加差押をしたことのみをもつて第一目録記載の土地に対する差押を無効ということはできず、追加差押の無効を前提とする公売処分無効の主張は理由がない。

(昭和二一年度及び昭和二二年度の滞納税額について)

五 控訴人は、別紙第一目録記載の土地に対する本件追加差押が有効であるとしても、右差押は、昭和二一年度から昭和二五年度までの鉱区税の滞納分徴収のためにされたものである、しかし、昭和二一年度及び昭和二二年度においては、鉱区税は、道府県の課することのできる税目中に含まれていなかつたのであるから、被控訴人は、右両年度の鉱区税を徴収することができない、したがつて、被控訴人が昭和二三年度から同二五年度までの鉱区税滞納分について差押したことはよいとしても、右差押は徴収することのできないものと一括してされているのであるから、結局、無効であると主張する。

なるほど、地方税法(昭和一五年法律第六〇号。)第二条、第四四条、第四八条及び地方税法(昭和二三年法律第一一〇号。)附則第一四二条によれば、昭和二一年度においては、鉱区税は、北海道地方税として課することをうべき税目中におかれてなく、被控訴人は、普通税として「鉱区税附加税」を徴収することができたに過ぎなかつた。しかし、地方税法の一部を改正する法律(昭和二二年法律第三二号。)及び地方税法(昭和二三年法律第一一〇号)によれば、昭和二二年度分の地方税から、被控訴人は、独立税として鉱区税を課することができるようになり、その後も引き続き徴収しうることになつた。

しかして、成立に争いのない甲第二号証の本件差押調書謄本中には、昭和二一年度分として徴収することのできない鉱区税につき滞納処分を行つたような記載があるけれども、右は、同年度分の税額(鉱区税附加税は、本税の百分の十をこえることができなかつた。)及び弁論の全趣旨並びに右地方税法等の法律改正の経過に照らすと、同年度の「鉱区税附加税」の誤記であり、被控訴人において、昭和二一年度分の鉱区税を徴収する趣旨ではないことが認められる。

しからば、昭和二一年度及び昭和二二年度においては徴収することのできなかつた鉱区税の徴収を含む差押処分は無効だから、公売処分は無効であるとの主張は、理由がない。

(差押処分に対する訴願の提起期間中に実施された公売は無効との主張について)

六 つぎに、控訴人は、公売処分は、地方税法と訴願法との規定により、差押処分の確定、すなわち訴願法による訴願の提起期間である六〇日が経過するまではこれを執行することができない、したがつて、本件においては、差押処分が控訴人に通知せられた日の翌日たる昭和二六年五月二八日から六〇日を経過した同年七月二七日以後でなければ公売処分をすることができないのに本件公売処分は、それ以前の同年六月八日にされているから当然無効である、と主張するので按ずるに、

本件滞納金のうち、昭和二五年法律第二二六号の地方税法が適用されるもの、すなわち昭和二五年度分の鉱区税についてはその滞納処分に関して訴願をなしうるとの規定はなく、かえつて、同法第二〇〇条に、鉱区税の滞納につては国税徴収法の規定による滞納処分の例によつて滞納処分がなされ、処分に不服ある者は、その処分を受けた日から三〇日以内に道府県知事に異議の申立をすることができ、異議の申立に対する道府県知事の決定は、その申立受理の日から六〇日以内になすべく、異議の決定に不服ある者は裁判所に出訴することができるが、異議の申立又は右の出訴があつても、処分の執行は停止せず、ただ、道府県知事は、職権に基いて、又は関係人の請求によつて必要があると認める場合においては、その執行を停止することができる、と定められている。したがつて、右の規定により道府県知事のする執行停止処分のない限り、差押物件の公売処分は停止されないのであるから控訴人の右主張は、理由がない。

また昭和一五年法律第六〇号の地方税法及び昭和二二年法律第三二号の地方税法の一部を改正する法律の適用を受ける昭和二一年度の鉱区税附加税並びに昭和二二年度の鉱区税については昭和一五年法律第六〇号の地方税法第二三条第四項に、昭和二三年法律第一一〇号の地方税法の適用を受ける昭和二三年度及び昭和二四年度の鉱区税については同法第二四条第五項に、それぞれ、滞納処分のうち差押物件の公売は差押処分の確定に至るまでこれを停止するとの定めがあること、控訴人主張のとおりであるが、昭和十五年法律第六〇号の地方税法第二三条第四項並びに昭和二三年法律第一一〇号の地方税法第二四条第五項の規定は、滞納処分中に、滞納処分につき訴願又は訴訟(昭和二二年五月三日以前は行政裁判所への出訴、同日以後は裁判所への出訴。)の提起があつた場合においてのみ、その争訟の終結により差押処分が確定するに至るまで、滞納処分のうちの公売処分は、その執行を停止すべき旨を定めたものと解すべく訴願又は訴訟の提起のない場合においても、差押処分に対する訴願の提起期間、すなわち差押処分を受けたのち六〇日間は公売処分を停止することを定めたものではない。したがつて、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

(差押調書送達前の公売公告であることを理由とする無効の主張について)

七 さらに、控訴人は、別紙第一目録記載の土地に対する本件差押調書の謄本(甲第二号証、但し、差押土地の表示が正当でないこと、後述のとおり。)が原告に送達されたのは昭和二六年五月二七日であるのに、被控訴人はこれに先き立つ同年五月一六日、右土地に対する公売公告をしている、差押の効力発生前にした右公売公告は無効であり、これに継続してされた昭和二六年五月二七日の公売公告も無効である、したがつて、右五月二七日の公告に基く同年六月八日の本件公売処分も無効であると主張する。

成立について争いのない乙第四号証中には、別紙第一目録記載の土地の公売を、昭和二六年五月二六日にも実施したかの如き記載があり、右土地が差し押えられた日が同年五月一六日であること、当事者間に争いがない。よつて、右の乙第四号証と、右争いのない事実を国税徴収法施行規則第二二条の規定に照し合わせると、本件土地の公売公告は、その差押の日と同日、すなわち昭和二六年五月一六日にも、一度なされたとの事実が窺われないでもない。しかしながら、仮りに、昭和二六年五月一六日に公売公告がなされ、それが差押の効力発生前であつたとしても、右の乙第四号証及び成立について争いのない乙第一号証によれば、右公告に基いて施行されたと推測される同年五月二六日の公売においては入札者がなく、差押の効力が発生したと控訴人が自認する同年五月二七日に、被控訴人は、あらためて、同年六月七日を公売期日と定めて、本件土地の公売公告をしたことが認められるので、差押の効力発生前にした同年五月一六日付の違法な公売公告の瑕疵は治癒されたものと解すべきである。よつて、この点に関する控訴人の主張も採用することができない。

(差押調書並びに公売公告における土地表示の誤りについて)

八 控訴人は、さらに続けて、本件滞納処分における差押調書謄本(甲第二号証)並びに公売公告(乙第一号証)によれば、差押財産、公売財産として

別紙第一目録の二 札幌市豊平九条五丁目七六番地の四六 畑 一反二五歩

同   目録の四 同市豊平八条五丁目七六番地の二九一 畑  三畝九歩

の表示がない、したがつて右土地に対する差押の効力を生じていないし、その公売処分も無効であると主張する。

なるほど、成立について争いのない甲第一号証並びに乙第一号証によれば、本件差押調書謄本及び公売公告中には、本件公売処分の目的となつた別紙第一目録の一、二及び三の土地の表示はあるが、控訴人主張の二筆の土地の表示はなく、そのかわりに

別紙第二目録の二 札幌市豊平九条四丁目四六番地    畑 一反二五歩

同目録の四    同市豊平八条五丁目二九一番地    畑  三畝九歩

の表示がある(但し、乙第一号証の公売公告中では、右のうち後者の土地については、二九一番地の表示すら脱落している。)ことが認められる。

しかしながら、成立に争いのない甲第三号証、第五号証の一から五、第七、第八号証を合せ考えると前記各二筆の土地は、それぞれその地目及び反別を同じくし、差押もしくは公売処分において、その目的物を特定しうるものと解すべく、この程度の表示の瑕疵は、本件差押もしくは公売処分を当然無効ならしめるものではない。この点に関する控訴人の主張も理由がない(但し、空知支庁における事務の取り扱い振りは、まことにづさんであるといわなければならない。)。

(むすび)

九 以上のとおり、別紙第一目録記載の土地につき、昭和二六年六月八日、被控訴人と訴外前田天との間にした随意契約による公売処分の無効確認を求める控訴人の予備的請求も、その理由がないとして棄却せざるをえず、これと同旨にでた原判決は、結局、相当である。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石谷三郎 立岡安正 岡成人)

(別紙目録省略)

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